Pivotを繰り返しながら、Product-market-fitを実現する起業家みたいだと。2018年に大リーグで大きな成功を収めた大谷翔平の特集をNUMBER誌で読んでの感想だ。

どうして大谷翔平は、シーズン開始前はひどい出来だったのに、開始したとたんに投手としても打者としても成功をおさめられただろう。その裏にはどんなPivotがあり、「Pivot力」があったのだろうか。

1)今のやり方がダメだということがわかってからのPivot

「キャンプのとき、早い段階で(エリック・)ヒンスキー打撃コーチに、『右足の動きはちょっとずつ小さくしたほうがいいんじゃないか』と言われていたんです。僕もそうかなと思っていたんですけど、まだオープン戦が始まったばかりなのに本当にそれがダメなのかということも確認できていませんでしたし、やろうと思っても簡単にできないことはわかっていました。だから、なかなか踏み切れませんでした。」(NUMBER968/969号。以下同じ)

現状のアプローチが本当に通用しないのか、手を尽くした上で正しく絶望することが、次のステップにつながる。

2)貪欲に教えを請う

大谷翔平は何度かイチローに会いに行っている。特にキャンプ中にバットを持って自宅を訪問した時には、トレーニング中のイチローに接し、大きな学びを得ている。イチローも大リーグに移ってから、バックスイング中に足を上げないフォームに変更している。「自分の才能、ポテンシャルを信じたほうがいい」というイチローのアドバイスは、この時に得たものだ。

「1時間くらいでしたから、いっぱい話せたというわけではなかったんですけど、あの時間の中で、確実に僕は変わることができました。『自分の才能を信じたほうがいい』というイチローさんの言葉のおかげで自信も持てましたし、その自信を持ってグラウンドへ入っていけるようになったのは、あの言葉がきっかけです。」

3)「今バツ、明日マル」の信念

シーズン開始前にパフォーマンスを出せなかった時期、大谷翔平は落ち着いていたように見えた。「想像しなかったカベにぶつかったと思います。そういうとき、何が自分を支えてくれたと思いますか」と言う問いに対して、大谷翔平はこう答えている。

「そういうものはあんまりなかったかな。うまくいかなかったことがほとんどで、できないこと、できないだろうなと思ってできないことにはまったくイライラしませんでしたから…。」

「メジャーリーグの野球は世界中からいい選手が集まってきて、洗練された技術の中で野球をやってきた。そうした歴史が長い分、レベルが高いのは当然のことだと思いました。(中略)今野自分のレベルを確認できた、再認識させられたのが一年目のキャンプだったという感じです」

ーたとえば、どういうところが上手くいかなかったんでしょう。

「ただ単に技術が足りなかったってことじゃないですか。下手だったってことですよ」

ーだって、開幕直後の3連発ですよ。そんなに急に上手くならないでしょう。

「それが、上手くなったんですよ(笑)。僕ってそういうこと、けっこう多いんです。変わるときは一瞬で変わるんです」

「自分は(今)できるはずだ」と思えば、できない自分にイライラする。大谷翔平を見ていると、「今の自分は力不足」という謙虚な自己認識と「将来はできるようになる」という明るい成長期待が、心の中で両立しているように見える。そして、課題を解決できる「将来」が一瞬のうちに訪れるという感覚を持っている。この感覚、つまり劇的な上達の成功体験を持っているからこそ、一投、一打、そして毎日の練習を意識的に行えるのではないだろうか。