ヤクルトレディーのことをYLと言うらしい。ということを、もとYLのアッコさんが教えてくれた。

アッコさんは島根県在住。子どもが3人いた。お父さんが50代で亡くなった。いろいろな兆候があったのに、気付かずに自分の父が死んだ。なんと不公平なのだろう。そう感じた。

身近なところに、健康、医療のスペシャリストがいなければならない。そうだ、自分は看護師になろう。アッコさんはそう思った。

看護学校に入学するために、70万円が必要だった。そんな金はなかった。だったら働いて稼ぐしかない。「託児所つき」というYLの求人広告が目に止まった。こうしてアッコさんは20代にして、YLになった。

様々な職場を片っ端から訪問し、飲料やヨーグルトを売った。ほとんど利益が残らなかった。どうすれば儲かるのだろう。お得意さんを増やし、客単価を上げるしかない。アッコさんのチャレンジが始まった。

ちなみにアッコさんは小柄な女性で、めちゃめちゃ明るい。笑顔で懐に飛び込んでくる。実家は和菓子屋だった。アッコさんは3歳のころ、親に頼まれもしないのに、店舗に置いてあったチラシを持って、道端で配って回ったという。ちなみにそのチラシは偶然そこに置いてあった森永製菓のクリスマスケーキのチラシで、このケーキが売れても和菓子屋の売上には当然ならなかった。

ヤクルトの話に戻る。アッコさんは職場の人間関係を観察し始めた。上司がいる。女性のスタッフが多い。上司は女性のスタッフたちの歓心を買いたい。だったら、この上司に影響を与える別の社員にリピーターになってもらい、上司に勧めてもらえばいい。そして究極の方法は、「まとめ買い」である。上司が部下全員分お金を払ってヤクルトを買う。上司の人気は大いに上がり、職場はみな健康になる。

この職場の人たちはアッコさんに関心を持った。そんなに若いのにどうして一生懸命にヤクルトを売っているのか。アッコさんは、父の死と自分の志を語った。

ヤクルトの販売量はさらに増えた。

ある時、新製品が出た。桃のエキスが入った飲料だった。職域販売では、大きな声を出して新製品を宣伝することができない。あっこさんは、巨大な桃のお面をかぶり、全身桃に見える衣装を自作して、職場に立った。社員は爆笑。みな新製品を買おうとしたその時にあっこさんは単品では売らず、笑顔で「ダース単位でしか売ってないんですよ」という名言を吐いて大量の販売に成功した。

70万円がたまった。YLをやめた。看護学校に入った。

現在アッコさん -- 矢田明子さんは、島根県雲南市でコミュニティ・ナースの組織化に取り組んでいる。コミュニティ・ナースは病院に帰属しない。地域コミュニティのために働く。頻繁に家庭を訪問し、住民のたまり場に顔を出し、高齢者たちに声をかけて回り、病気を未然に防ぐ。

ヤクルトを持って職場を回った時の経験が、コミュニティ・ナースの活動に役立っているという。コミュニティに飛び込み、会話し、観察する。そして健康を守る。驚くほど共通点が多い。

今日の結論:
知力、体力、コミュニケーション能力。ヤクルトレディーこそが地上最強の職業である。
yata
(写真:矢田明子氏)