ボトムアップで新規事業アイデアが次々に生まれ、それが具現化されていく。
それが理想なのは、誰でもわかっている。
しかし実際には、そう美しくは流れないことが多い。
ボトルネックは、4個あると思う。

1)発案者の情報不足・スキル不足
2)新規事業企画をすすめる「場」「文化」の欠如
3)発案者と経営陣のコミュニケーション不全
4)経営陣の意思決定力、および新規事業推進力の不足

この中で、3)の問題は根深い。発案者は、経営陣に何を伝えればよいのかわからないケースが多い。一方で経営陣は、意思決定のために必要な情報が上がってきていないと感じることが多いのではないだろうか。

合理的なコミュニケーションは「無理」という考え方もある。名著「イノベーションの理由 -- 資源動員の創造的正当化」によれば、日本企業の新規事業大成功案件を調べた結果、「新規事業の経済合理性が不明な段階で」「合理的とは言い難い理由で」資源投下が正当化されていたケースが多かったとのこと。であれば、新規事業を推進するリーダーは、権謀術策を駆使して経営陣の力を引きずり出して、新規事業を推進すべし!と結論したくなる。

しかし依然として、新規事業のGo / No goが、合理的なコミュニケーションでサクサク決まっていく世界は実現可能だと、私は信じたい。

そのためにカギを握るのは、「リスクとリターン」についての情報が、発案者(企画推進者)と経営陣の間で、正確に共有されることではないだろうか。

例えば、あるメーカーの技術者が、卓越した要素技術を開発したとする。このとき、これを商品化する動きをすることが

・どのような失敗確率を伴い
・どれだけの資本投下を必要とし(Risk Exposure)
・成功したときのリターン(戦略的意義を含む)はどのようなものか

という3点を経営陣に正確に伝えられれば、十分だと思う。経営陣はこの情報を使って適切にGo / No Goの判断を下し、新規事業ネタのポートフォリオを組めるのではないだろうか。(例えば失敗する確率の非常に高いプロジェクトであっても、「成功した時のリターンが莫大だから、ポートフォリオに組み込んでおこう」といった、さばけた意思決定が可能になるはずだ。)

これが、新規事業を提案する側に求められる、コミュニケーションスキルだと思う。

このようなコミュニケーションを取るためには、自身の事業のリスクとリターンを、冷徹に分析し、伝える力が必要になる。「熱意」は大事だが、新規事業においては「冷静さ」がもっと大事だと思う。(私自身、熱くなりすぎて冷静な視点を欠く失敗を、何度も犯してきた)

日本の事業会社が新規事業創出力をアップするために、あるべき「コミュニケーション」はどういうものなのか。私にもまだ、正解が何なのか見えていないが、どの企業でも改善の余地は無限にあるように思う。