成熟した産業であっても、その周辺に必ず新しい事業機会が存在します。

日本の漁業も、例外ではありません。

過去10年間の流れを見ていると、漁業加工・販売業で急成長を遂げた企業が複数見られます。南三陸町で言えば、山内鮮魚店や、マルアラ株式会社など。

この事業機会の裏には、2つの底流があるような気がします。ひとつは、冷凍・冷蔵・真空パックなどの加工技術の進歩。(注)もう一つは、インターネットやIT技術を活かした、流通の革新。この二つの流れが合わさって、「水揚げされた魚介類を鮮度高く冷凍、または調理後に真空パックにして、インターネットなどで販売する」という事業モデルが成立しました。これを活かした加工・卸売・ネット小売業者が、急激に成長する例が複数出てきています。

3つ目の底流があるとしたら、それは「中食」の成長かもしれません。外食はしないが、家庭で調理をゼロからやるには、忙しすぎる。そんな家庭では、加工済の食材を買ってきて、ほとんど調理をせずに食卓に出す。そんなライフスタイルが、女性の職業進出と共に広まってきています。山内鮮魚店の店舗を訪れると、電子レンジで温めるだけで食べられる焼き魚(調理済み)が真空パックで売られていて、時代の底流に乗っていることがわかります。

ここまでは「過去」の話です。そして私が関心を持っているのは、「これからの20年間の『底流』は何か」ということ。漁業周辺に大きな事業チャンスを生む「底流」が何なのか。それが見えれば、東北被災地近辺の漁業地域にとっても、大きな意味を持つはずです。

二つ、関心を持っている「底流」候補があります。

一つ目は、海外進出です。

現在日本には、海外の魚がどんどん入ってきています。たとえばノルウェー産の養殖サケは、0-4度の冷蔵状態で日本に空輸され、寿司店などで使われています。(参考:ノルウェー産サケの広告企画

これを可能にした養殖技術、冷蔵技術、輸送技術の進化は、日本の漁業も活用できるはずです。つまり、海外の漁業従事者と、日本の漁業従事者のガチンコ勝負が既に始まっており、逆に日本の魚介類を世界中に輸出できるチャンスが出てきているのです。

「そんなこと、知ってるよ」と言われそうな気がします。実際に統計資料を見てみると、日本の水産物輸出高は、2003年(1353億円)から2008年(2378億円)まで、年率12%で伸びています。(農林水産省の統計。11ページ参照)

この機会を活かし、世界中に日本の水産加工物を広めること。これは今後相当長く続く「底流」かと思います。欧米のヘルシーフード指向にもマッチするかと思います。

二つ目は、高齢者向けです。

現在介護の世界では、噛む力が弱く、飲み込む時の失敗(嚥下障害)を起こしやすい高齢者のための介護食が、急激に広まっています。特にマルハなどの缶詰メーカーは、魚の味を活かした様々な介護食を売り始めています。(

どうせ「加工」するなら、高齢者向けに「加工」するのが、これからの日本の「高齢化」という底流に乗れていいように思います。このあたりは、今後のビジネスチャンスを生むのではないでしょうか。

以上の2点が、自分が最近持っている仮説です。知識がなさ過ぎて、当たっているかどうか自信がないのですが…。詳しい方々のご意見をぜひ、お伺いしたいです。

(注)
「魚は鮮魚で流通・消費される場合と、もう一つ、冷蔵・冷凍によって保存され、解凍されて食される場合や加工されていく場合とがある。近年、冷蔵・冷凍技術が高まり、後者の部分の比重が高まっている。(70%ほど)例えば、サンマの場合、鮮度維持が難しく、生鮮の刺身は産地以外では提供できなかったのだが、近年の冷凍技術発達により、東京などの消費地の居酒屋でも解凍して刺身で提供することも可能になっている。」(「東日本大震災と地域産業振興」関満博)