NHK「坂の上の雲」の第一部(5回)が終わった。

第二部が始まる日が、待ち遠しい。ワールドカップ以上に、待ち遠しいかもしれない。

第一部の感想は、以下の通り。

1)俳優陣の演技

超一流の俳優陣が集まり、その演技は素晴らしい。

私が特にはまっているのは、正岡子規役の香川照之である。死を覚悟し、恐怖しながらも、前進する意欲を失わない子規の精神が、痛いほど伝わってくる。

香川照之は、晩年の正岡子規の心境がわからず、撮影を前に悩んで子規記念館を訪れたという。記念館を出る時には、涙を浮かべていたという報道がされていたが…第二部以降でどのような演技を見せてくれるか、楽しみだ。

秋山好古役の阿部寛と、真之役の本木雅弘の演技は、二人の主人公の人間的魅力を存分に伝えてくれる。一言で言えば、「かっこいい」明治の男そのものである。

また、脇役陣も素晴らしい。私の職場で話題になっていたのは、小村寿太郎役の竹中直人である。日本を一流国にするための闘志を失わず、国際外交の場で懸命の背伸びを続ける姿は、滑稽であり、同時に胸を打つ。

2)映像の美しさ

以前もブログで触れたが、映像の美しさは、テレビドラマとして比類のないものだと思う。世界各国での撮影には相当なコストがかかったことと思うが…「日本」という小さな国を主人公としたこの物語を映像化するためには、この海外ロケは必須だったことと思う。

白黒の映像を交えながらの場面展開は、興味深い。リアルな「歴史」とフィクション的な「物語」が交差し、物語までが圧倒的なリアリティをもって伝わってくる。

3)メッセージ性

司馬遼太郎の文章がそのまま、ナレーションに組み込まれており、司馬遼太郎ファンとしては至福である。司馬ファンでない視聴者には、「解説が多い」と批判もあったようだが、ナレーションなしに「坂の上」のメッセージを伝えることは、現実的ではないと思う。

興味深かったのは、戦闘シーンや「戦争」というものの扱い方だ。NHKは、このスペシャルドラマを、戦争バンザイ的なストーリーにしないように、細心の注意を払っているように思われる。

例えば、日本軍が朝鮮半島(遼東半島?記憶不明確)に進むシーンでは、侵略を受ける側の目線を丁寧に描いている。日本にとっては、ロシアの侵略から国を守るための措置であったとしても、侵略される側にとっては「迷惑」以外の何物でもない。このドラマでは、支配を受ける側の恨めしい思いを、様々な角度から描いている。

また、海戦の描き方も、象徴的だった。秋山真之の乗る戦艦が砲撃を受け、マストが折れ、血しぶきが飛び、真之の親しい部下が命を落とす。真之はそれを見て、「わしは、軍人には向いちょらん」とこぼす。あまりに繊細な感性を持った男が、時代の流れに身を任せた結果、あまりに人が死ぬ現場に身を投じたことの悲劇性を、このドラマは丁寧に描いている。

そもそも、司馬遼太郎はこの「坂の上の雲」の映像化を、死ぬまで許さなかったという。その理由は、「映像化すれば、どうしてもミリタリズムになってしまう」ということだったと、何かの雑誌で読んだ。にもかかわらず、今回みどり夫人が映像化を許した理由は、「NHKの中でも、戦争を体験した世代の退職が近づいており、映像化するなら今しかない」ということだったと、伝え聞いた。

このスペシャルドラマは、視聴者が日露戦争の戦勝に酔い、戦争の悲惨さから目を背けることを、一切許さない。ストーリー展開を面白くしながら、なおかつこのポリシーを貫くことは、非常に困難を伴う制作作業だと思う。

NHKに心から、敬意を表したい。