2001年、9月11日のテロを留学中アメリカで経験した。クラスの中で、「なぜテロが起きるのか」というテーマでシリアスな議論をした。

「アメリカが自由で豊かだから、彼ら(テロリスト達)はアメリカを妬んでいるに違いない」

若いアメリカ人の、あまりに単純な発言に、一瞬クラスは白けた。しかしその時、別のクラスメイト(彼は、マッキンゼーで働いていた黒人のアメリカ人)が手を挙げて、小さな声で、しかしはっきりと言った。

「いや、問題の源泉は、イスラエルをめぐる問題だと思う。」

クラスの中にイスラエル人の女性がいた。優しい、美しい女性だったが、この瞬間、凄まじく鋭い目で宙を睨んでいた。あの眼が、今も忘れられない。

---------------------------

自分の国の存在を守る---それだけのことに全てをかけるイスラエル国民の意思の強さは、恐ろしいほどである。しかし、だからといって、ガザ地区を集中的に爆撃した今回のイスラエルの振る舞いは、日本のメディアで見る限りは、正当化できないように思えた。

そこで、海外の、バランスのとれたメディアはどう見ているのか、興味があった。

近所に住んでいるイギリス人の友人が、読み終わったエコノミスト誌を私のポストに放り込んでくれる。1月3日版が届いたので、読んでみた。

まずエコノミスト誌は、イスラエルの攻撃が引き起こされた背景を説明する。

12月19日、ハマスはエジプトの仲介を無視し、6ヶ月間に及んだ停戦協定を延長しないことを決定した。そして、イスラエルが攻撃を開始した12月27日までの間に、約300発の爆弾をイスラエルに打ち込んだ。「その意味で、イスラエル側がケンカを売られた(provoked)という説明は、正しい。」("Gaza: the rights and wrongs" Economist Jan 3, 2009)

しかし、ここからエコノミスト誌の論説は冴えわたる。

武力攻撃が正当化されるためには、以下の3つの条件が満たされなければならない。
1)自国を守るための、他のあらゆる手段を、やり尽くしていること
2)この攻撃が、(自国防衛という)目的に合ったものであること
3)その目的が達成されるという合理的な見通しがあること

これら3点全てにおいて、イスラエルの論拠は薄弱である。


エコノミスト誌は、イスラエルがガザ地区を経済的に封鎖し、人道支援ですらガザ地区に届かない状況が生み出されたことを指摘する。

「イスラエルが喧嘩を売られたのと同様に、ハマスもイスラエルから喧嘩を売られたのである。」

----------------------

戦争の背景には、構造的な利害の対立がある。しかしさらにその奥には、それぞれの国民の凝り固まったメンタルモデル--思考パターンがあるように思った。