休暇を取って確定申告を終えた。その後、時間が空いたので、13年ぶりに「広尾」に行ってみた。

私にとって、いや「私達」にとって、「広尾」と言えば、それは都立中央図書館を意味する。中学から大学まで、ESSで英語ディベートに没頭していた私は、自宅から遠く離れた「広尾」に行って、リサーチに明け暮れていた。

高校から大学まで、濃密な思い出は全て、「広尾」と共にあった。「目指せインターハイ優勝」と張り紙を部室に張って、インターハイに初出場し、毎日「広尾」で必死のリサーチをしながら、結局予選で全敗した夏のこと。そのままディベートをやめることができず、大学時代には大学以上に頻繁に「広尾」に通った。高いくせにまずい食事がどうしても納得できず、いつも200円のカロリーメイトをかじりながら、大量の茶を飲んで腹を膨らませていた。

「広尾」に行けば、必ずどこか、他大のディベーターの友人がいた。競い合い、毎週末激戦を繰り広げ、そして一緒に酒を飲んだ仲間達。

そんな「広尾」の光景が、激しく脳裏でフラッシュバックした。

久々の有栖川記念公園は、美しかった。少しだけ梅の花が咲いていた。昔は、周囲を見回す余裕もなく駆け上がっていた階段が、静かな木々と鳥達に囲まれていることに、今更気づいた。

その時、唐突に、ジャージ姿の佐藤ひろみちお兄さんを発見した。公園の階段をすさまじい勢いで駆け上っていった。二台のテレビカメラが、お兄さんを追う。何の撮影だろうか。もう若くはないはずだが、すごい体力、素晴らしいダッシュだ。

図書館の中に入ると、昔と何も変わらない、懐かしい光景が広がっていた。唯一大きな変化だと思ったのは、書籍によっては自分でコピーを取れるようになったこと。一枚10円は、ありがたい。

今のオフィスは、「広尾」から徒歩10分のところにある。いつも曲がっていた交差点。まっすぐ行けば、オフィスに着く。

あれから10年も。この先10年も。わが聖地「広尾」。わが戦地「広尾」。美しく着飾った人達が優雅に行き交うこの町で、泥にまみれ、ガムシャラに走り続ける。それが自分の宿命なのかもしれない。

山中礼二